One


 春まだ浅い3月。

 鈴原里緒は高校の卒業式を迎えた。この3年間いろいろな事があったと友人達と泣き、

別れを惜しんで帰路につき自宅の玄関を開けると、すぐに家族が迎え出てくれた。

「卒業おめでとう、里緒。さぁ、早く上がりなさい。母さんが腕によりをかけてごちそう作って待ってたんだぞ?」

「お帰り、里緒。卒業おめでとう」

「おめでとう、里緒」

「皆・・・ありがとう」

 家に着くなり父と母、それに涼の3人に立て続けに祝福の言葉を言われ、

里緒は何だかちょっとくすぐったくなりながら返事をした。

 部屋に入り私服に着替え、今日で着納めのハンガーにかかった制服を眺めていると、妙に感慨深い。

「あたし・・・本当に卒業しちゃったんだね・・・・」

 長いようで短かった高校生活。すでに短大への進学が決まっている里緒は、明日から少し長めの春休みに入る。

もう学校へ行く事もないし、この制服もきっとタンスにしまわれたままで、数年後に思い出して

懐かしんだりするのだろう。里緒はしみじみとその制服を見つめた。

「里緒、ご飯が冷めちゃうわよ。早く下りてらっしゃい」

「はーい、今行く」

 母の声に里緒は慌てて階段を下りていった。



「なんか・・・凄いごちそう・・・・」

 食卓に並ぶ料理の数々を見て、里緒はあぜんとしてしまった。

 何故なら、本当にこれを4人で食べるのかという程の量だったから。

「当たり前よ。何しろお昼頃から体をフル回転させて作ったんだから。

あなたがこんなに遅くならなければもう少し減ってたんだけど」

「・・・・ごめんなさい」

 そう、今の時刻は午後7時。卒業式が終わった後、すぐに帰って来るものと思っていた母は、

帰り次第すぐにでも里緒に食べてもらおうと、それはそれは早くから仕込みを始め、

ありとあらゆるジャンルの料理を作り続けていたのだ。しかし里緒から、

『今日で最後だから友達と少し遊んでから帰るね』

などというTELをもらい、母はがっくりしたのだった。

「まぁまぁ、母さん。それ位にして早速食事にしようじゃないか。里緒もお腹がすいてるだろうし」

 父のフォローによってホッとした里緒は待ってましたとばかりにぱくぱくと食べ始めていく。

「そんなに急がなくても料理は逃げたりしないよ」

 涼が隣でくすくすと笑いながら言った。

「そうよ。年頃の女の子なんだから、もう少しおとなしくなってくれるとねェ。

全く、色気より食い気って感じね」

 母の痛い台詞が飛んでくる。

「いいじゃない。育ち盛りなんだから」

 負けじと反論したが、内容に少し無理があるようだ・・・・。

「そうだな。沢山食べて、グラマーになってくれると俺は嬉しいかな」

「・・・・それは無理だよ・・・・」

 涼の一言に里緒はがっくりとうなだれた。

 そんなとりとめのない話題で食事が進んでいた時、涼がふと思い出したように里緒に話し掛けた。

「ああ、そうだ、里緒。少し話があるから、後で俺の部屋へ来てくれないか?」

「? うん、分かった」

 改めて話と言われて、何だろうと思いながらも里緒はすぐにうなずいた。



 あれだけあった料理が、一体誰の何処へ消えたのかと思う程綺麗に無くなった食事を終え、

里緒は今日の疲れをとるべくバスルームへと向かった。

お湯に浸かりながら、話って何だろう、とずっと考え続けていたが、何も思い当たらない。

考えすぎて何だか湯あたりしそうだったので、少し早めに上がりパジャマに着替えた後、涼の部屋へと足を運ぶ。


「涼兄、話って何?」

 部屋のドアをノックして中へ入ると、机に向かって座っていた涼がこちらを向いた。

「ああ、これを渡そうと思ってね。改めて・・・卒業おめでとう、里緒」

 そう言って涼は里緒に小さな包みの箱を渡した。

「涼兄・・・・。ありがとう、開けてもいい?」

「どうぞ」

 渡された箱を開けると、そこにはムーンストーンをあしらった可愛いネックレスが。

「涼兄・・・・。これ・・・・」

「そう、お前が大事にしているおばあちゃんの形見の指輪。あれとおそろいの石だよ」

 形見の指輪。自分と涼を結び付けてくれた里緒にとっての宝物だ。涼はそれを忘れてはいなかった。

「ありがとう・・・・涼兄・・・・。あたし大事にするね」

 その言葉に涼は嬉しそうに微笑んだ。

「話って、この事だったの?」

「それもあるけど、実はお前に頼みがあってね」

「頼み?」

「そう。もう一度だけ、制服を着て見せてくれないか?」

「制服を?」

「ああ。何たって今日で見納めだからね。この目にしっかりと焼き付けておこうと思って」

「・・・・分かった。すぐ着替えてくるね」

「ありがとう」

 涼の言葉に里緒は少し照れて赤くなってしまったが、すぐに気を取り直して自分の部屋へと向かう。

 しばらくして、制服に着替えた里緒は再び涼の元へと赴いた。

「これでいい?」

「ああ。・・・やっぱり、すごく似合ってるね。可愛いよ」

「や・・・やだ・・・・もう・・・・涼兄ってば・・・・」

 里緒は真っ赤になって俯いた。

「・・・・里緒・・・・」

「え?」

 さっきまでとは全然違う声音で自分の名前を呼ばれ里緒が顔を上げると、

そこには真剣な表情をした涼が立っていた。

「涼兄? どうし・・・・」

「俺はね、里緒。ずっとこの日を待ってたんだよ」

 そう言うなり、涼は里緒をぎゅっと強く抱きしめた。

「涼兄・・・・」

 涼はそのぬくもりを離すまいとするかのように、きつく抱きしめたまま言葉を続けた。

「お前とは絶対に結ばれる事は無いだろうと諦めていた俺がお前と両思いになれて、

お前に受け入れてもらえて、本当に嬉しかった。

それだけでいいと思っていたのに、いざそうなると今度は次の欲が出てきてお前に触れたいと、

抱きしめたいと、俺だけの物にしてメチャクチャにしてしまいたいと思ってしまうんだ。

でもまだ高校生のお前にそんな事出来る筈も無い。それにそんな男のエゴをお前に知られたくなかった。

でももし、そんな俺でもいいと、受け入れてくれるとお前が言ってくれるなら、

卒業したその時にはお前の全てを俺だけのものに・・・・そう思っていたんだ」

 涼が何を言わんとしているのかを理解した里緒は、一瞬頭が真っ白になり体を強張らせた。

 緊張の極致だ。

「里緒・・・・。嫌か・・・・?」

 真剣なまなざしで見つめられ、里緒はぶんぶんと頭を横に振った。自分だって、両思いになれた時から

その事を考えなくはなかった。嫌だなどとは絶対に思ったりしない。

 しかし、自分にとっての未知の世界は、恐くもあり、なかなか踏み出せない領域だったのだ。

 でも今、心から愛する人が自分を求めてくれる事に、何を躊躇う事があるだろう。

「じゃあ・・・・いいか・・・・?」

 涼の言葉に里緒はこくんと頷いた。

「そうか、OKか。それじゃ遠慮なく」

 というが早いか、涼は里緒を抱き上げるとそのままベッドへ押し倒した。

「え? えっ? ちょっとっ涼兄!?」

 先程までの真剣な顔は何処へやら。嬉しそうにニコニコと里緒を見つめる涼に彼女は面食らった。

「どうした? ハトが豆鉄砲食らったような顔して?」

「ど、どうもこうも・・・・何? その豹変ぶりは!?」

「ああ、気にするな。大した事じゃないよ」

 嬉々として、里緒の抗議にも一向に動じない。しかも、いつの間にかスカーフははずされ、前をはだけられ、

なおかつスカートもめくられていた。



「な、何か、涼兄って・・・・」

 手馴れてるって思うのは、気のせいなのだろうか・・・・。

 などと考えている内に涼も上着を脱ぎ、里緒の眼前にせまってくる。涼は里緒の頬にそっと手を添えた。

「もう大丈夫みたいだな。ガチガチに緊張してただろう? 初めてなんだから当然だよ。

力を抜いて、俺に全てを預けてくれればいいんだ。身も心も全てね。・・・・愛してるよ、里緒・・・・」

 そう言って、涼は里緒を優しく抱きしめた。

「涼兄・・・・」

 自分を気遣ってくれるその優しさが里緒は嬉しかった。

 女の子が男性を初めて受け入れるとまどい、恐さ、躊躇い、それらを解ってくれている。

 里緒にもう迷いはなかった。この人があたしの大好きな人なんだと思うだけで、胸が一杯になる。

 強張りを解いた里緒の上に、涼がゆっくりと覆い被さってきた。

 優しい口づけを繰り返し、やがてそれは徐々に深く激しいものへと変わってゆく。

「っん・・・・んうっ・・・・んっ・・・・」

 初めての性交の前戯としてのキスに、里緒は息が上がってくる。

 唇を離すと、飲み下しきれなかった唾液が里緒の口の端を伝い、つうっと流れ落ちてゆく。

 肩で息をつく里緒の唇にもう一度今度は軽くチュッとキスを落とすと、涼の唇は彼女の首筋をたどり、

甘くきつく吸い上げた。

「っ・・・・・・・っ!!」

 何か言いようの無い感覚が背筋をつき抜けるような感じに、里緒は背を仰け反らせた。

 涼の唇が紅い跡を残すたびに里緒の体は活きの良い魚のように跳ね上がる。

すでに硬くしこった胸の突起を指で擦られ、唇でなぞられ、強く吸い上げられて。

あまりの快感に自分の秘部がどくんどくんと息づき始めたのに気付いた里緒は、どうしていいか分からない。

 涼の唇は少しずつ里緒の体の下の方へと降りていき、

やがて彼女が自分でもあまり触れたりしない場所へと辿り着く。

「里緒・・・・脚を開いて・・・・」

「・・・・っや・・・・っっ・・・・」

 涼の言葉に里緒はふるふると首を振った。快感に震える脚をぴったりと閉じたままで、

涼の手が内側に潜り込もうとするのをきつく阻んでいる。

好きな人に自分でも見た事の無い場所をさらけ出すのが死ぬ程恥ずかしいのだ。

里緒のそんな様子に苦笑すると、涼は彼女の脚に手をかけたまま再び柔らかな胸元へと唇を落とし、

敏感になっている可愛い飾りを舌で舐め上げ強く吸った。

「っああっ!・・・・っあ・・・・」

 里緒の意識がそちらへ集中したのを見計らい、涼は彼女の両足の間に自分の体を入れ、

ゆっくりと左右に割り開いてゆく。

涼の瞳が里緒の秘部を見つめると、彼女のそこは既に濡れてひくひくと蠢いていた。

「や・・・やだっ・・・・涼兄・・・・見ないでっ・・・・」

 里緒は羞恥のあまり両腕で顔を覆ってしまった。恥ずかしくてたまらず全身を桜色に染め上げる。

「里緒・・・・綺麗だ・・・・愛してるよ・・・・」

 次の瞬間、里緒の内に涼の指がゆっくりと潜り込み、優しく掻き回された。

「っや・・・・っやあっ・・・・っ!」

 愛しさを伝えるような指の動きに里緒は言葉も出ない。

 涼の指は里緒を傷つけまいとしながらも、更に快感を引き出そうと巧みに蠢く。やがて里緒の内から指が

引き抜かれ、彼女がホッとしたのもつかの間、今度はそこに何か暖かいものがあてがわれた。

 里緒が顔から腕をどけ恐る恐る見ると、先程指を入れられた部分に涼の顔があった。

「り・・・・涼兄っ!・・・・やめてっ・・・・そんな所・・・・汚いよっ・・・・!」

 涼のその行為に、里緒は信じられないとばかりに驚愕の声を上げた。

「汚くなんかないさ。里緒のここはピンク色をしていて、とても綺麗だ・・・・それに・・・とても甘い・・・・」

「っあ・・・やっ・・・あああんっ!・・・・っ」

 涼は顔を埋めたままそう言うと、里緒の胎内に舌を挿し入れて、内壁に思うさま這わせた。

 そのあまりの快感に里緒が嬌声を上げる。狂おしい想いを伝える様に、

涼の舌は襞の一つ一つまでを丁寧に愛撫していく。

里緒は涼を離そうと彼の髪に手を差し入れたが力が入らない。

それどころか、逆に彼の頭をそのまま押さえる形になってしまった。

「あうんっ・・・あっ・・・んっ・・・あんっ・・・あっ・・・んっふっ・・・」

 甘い声を上げる里緒のそこからは、透明な蜜がとろとろと大量に溢れ出す。

「っあっ・・・あっ・・・・あああああああーーーーー・・・・っ」

 里緒の内から溢れてくるものを一滴も逃すまいと、ちゅるちゅると強く吸い上げると、

彼女は一際大きな声を上げて、びくびくと仰け反った。

絶頂を迎えた里緒は、下腹部を軽く息づかせながら放心したように横たわっている。

生まれて初めての強烈な感覚に何も考えられない。


 涼はやっとそこから顔を上げ、口の端を軽く指でぬぐうと放心したままの里緒に唇を合わせ、

舌を深く挿し入れてその甘さを堪能する。やがて唇が離れるとお互いの瞳を見つめ合って。

「里緒・・・・いいか・・・・?」

 涼の言葉に里緒はこくんと頷いた。

 里緒の唇に軽くキスを落として、涼は彼女の両足を胸につく程折れ曲げさせて抱え上げた。

 既に猛っている己の物を里緒の秘部にあてがう。

「っ!・・・・あっ・・・いっ・・・た・・・あ・・・っ」

 初めて男性を受け入れる里緒を気遣い、ゆっくりと慎重に腰を進めてゆく。その痛みに耐える表情が痛々しい。

「里緒・・・・ごめん、少しだけ我慢してくれ」

 涼がそう言うと、里緒は苦痛に耐えながらも小さく微笑んだ。更に腰を進めていくと、その進入を何かに阻まれる。

 それは里緒が処女である証し。ぐっと強く力を込めて、涼はそれを突き破った。

「!っああああああああっっ・・・・・・!!」

 想像を超える破瓜の痛みに里緒が声を上げた。結合部からは赤い糸がつうっと流れて、

里緒の瞳から涙がこぼれた。熱い胎内に全てを収めた涼は、

そのまましばらく動きを止めて、じっと待つ。里緒の辛そうな様子に、

痛みを与えている筈の涼が苦しげに言った。

「里緒・・・・どうしても痛いなら・・・今日はもう・・・」

「やっ!・・・・やめな・・・いでっ・・・・大丈夫・・・だから・・・このまま・・・・っ」

 そのあまりにも苦しそうな里緒の表情に見かねて、涼が涙をぬぐってやりながら自分自身を引き抜こうとした時、

彼女の必死な声に止められた。

「・・・あたしっ・・・涼兄と一つになれて・・・嬉しいのっ・・・だから・・・っ」

「里緒・・・・」

 そんなけなげな事を言う里緒が、震える程愛おしい。

 里緒の内がほぐれてくるのを待ち、やがてゆっくりと抽送を開始した。

「くっ!・・・っう・・・んっ!・・・・っつ・・・・っ」

 初めての痛みに耐えながらも、里緒は少しずつ涼の動きに合わせていく。

「あっ!・・・あうっ・・・ん・・・あんっ!・・・ああっ!・・・っあ・・・」

 しばらくすると内壁がなじんできたのか、里緒の声に甘いものが混じり始めた。それを見計らって、涼は徐々に

腰の動きを早めていき、やがてそれは本来のペースで力強くリズムを刻んだ。

 里緒の表情に、もう苦痛の色は見られない。

「あんっ!・・・ああっ・・・あっ・・・涼兄っ・・・あたしっ・・・も・・・う・・・ああっ・・・!」

「くっ・・・!・・・里緒っ・・・・っ」

 その瞬間、熱い奔流が里緒の胎内へと流れ込んでゆく。それと同時に里緒も二度目の絶頂を迎えた。

 燃える想いを全て収めきった涼が里緒の顔を見つめると、幸せそうに微笑みを湛えた笑顔が返ってきた。

「里緒・・・・愛してるよ・・・・」

「あたしも・・・・愛してる・・・・」

 快感の余韻を残したままの心地良いまどろみの中、やがて2人は幸せな眠りに落ちていった。




 翌朝、涼よりも先に目が覚めた里緒は、何だか顔を合わせるのが気恥ずかしくて、彼を起こさないようにベッドから

出ると、脱ぎっ放しになっていた制服を抱え自分の部屋へと戻っていった。

 今日から休みに入った里緒は、別に朝寝坊しても一向に構わないのだが、ついいつもの習慣で目が覚めてしまう。

 服を着て階段を下りて行くと、もうすでに出勤した父の姿はなく、母が自分達の朝食の仕度をしてくれている所だった。

「おはよう、お母さん」

「おはよう、里緒。休みなのに起こされなくても起きたの・・・ね!?」

 背を向けて準備をしていた母が里緒の声にくるっと振り返ると、何故かぎょっとしたように動きを止めた。

「?・・・ど・・・どうしたの? お母さん。あたしの顔に何かついてる?」

「え・・・?・・・い・・・いいえ・・・何でもないわ。さ・・・さあ、用意が出来たから、冷めない内に食べなさい」

「うん、いただきます」

 里緒が食卓につき食事を始めると、母も向かいの席に座りお茶を飲み始める。

 食事の間、母はまじまじと娘の顔を見つめたままだった。



「ご馳走様でした。おいしかったー」

 里緒が食事を終えると、母は彼女にもお茶を入れてやり、また向かいの席に座った。

「里緒・・・・」

「ん? 何?」

 ふいに母が神妙な顔で里緒の名を呼んだ。そんな母の真剣な様子に、返事をした里緒も何事かと身構えてしまう。

「・・・・涼は、優しくしてくれた?・・・・体、何ともない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

 一瞬、母が何を言っているのか分からなかったが、すぐにその意味を理解した里緒は、一気に顔を真っ赤にした。

「な、ななな・・・・どどっ・・・・ど・・・・そっ・・・・そそっ・・・・!!」

「・・・・何で、どうして、その事を?」

 どもってしまった里緒の代弁をした母に、彼女は勢い良くぶんぶんと頷いた。

「母親をナメてもらっちゃ困るわね。バレバレよ」

「いっ・・・・いやーーーーーーーーーっ!! お母さんのバカーーーーーーーーーーっっ!!」

 ふふんと笑いながら言った母の言葉に更に真っ赤になった里緒は、

叫びながらバタバタと自分の部屋へと走っていった。

「・・・・何で、あたしがバカと言われなきゃならないのよ?」

 娘の言葉に母は憤慨した。

「・・・母さん、あんまり里緒をからかっちゃ可哀相だよ」

 文句を言っている母に、起きてきた涼が声を掛けた。普段の自分は棚上げである。

「あら、妹を毒牙にかけた人に言われたくないわぁ、ほほほほ」

「毒牙は酷いと思うけど、反論できないなぁ、はははは」

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

 ・・・・・・・・喰えない親子だ・・・・・・。

「はぁ・・・・・。お父さんがここに居なくて良かったわ。いたら卒倒してるわよ。

ま、何にしても、アンタ達が幸せならあたしは何も言わないわ」

「・・・・ありがとう・・・母さん・・・・」

 涼は素直に感謝の言葉を口にした。

「それより涼、アンタ気をつけなさいよ? あの娘、昨日の今日なのに全然雰囲気変わっちゃってるわ。

あたし固まっちゃったわよ。娘がたった一晩で妙な色気醸し出してるなんて。

・・・・これから今以上に綺麗になっていくわ。

横から攫われたりしないように、しっかり見てないとダメよ?」

「ああ、その点なら心配いらないよ。何たってお互いベタ惚れだから」

「・・・・・・・・・ご馳走様」

 母親に向かってさらっとノロケる息子に、呆れてものも言えない。

「さてと、俺は拗ねてしまったお姫様を宥めてくるかな」

「・・・・涼・・・・」

 そう言ってキッチンを後にしようとした涼を母が呼び止めた。

「ん?」

「・・・・泣かせたりしたら、承知しないわよ・・・・?」

「・・・・分かってるよ」

 母の言葉にしっかりと頷いて、涼は里緒の元へと向かった。




 2人が結ばれた夜から一週間後、涼と里緒は買い物がてらドライブへと出掛けた。

 里緒は隣で運転している涼に、ずっと気になっていた事を聞いてみる。

「あ・・・あのね、涼兄。聞きたい事があるんだけど・・・・いい?」

「いいよ。何でも聞いてくれ」

「あの・・・・は・・・初めての夜の・・・事なんだけど・・・食事の時、グラマーな人が好みって言ってたでしょ?

やっぱりそういう方がいいの・・・・?」

 その時の事を思い出してしまい真っ赤になってどもりながらも、里緒は一番気になっていた事を切り出した。

「ちょっとニュアンスが違うんじゃないか? 俺はグラマーが好みだとは一言も言ってない筈だけど。

それに、あんな冗談を気にしてたのか?」

「あ、あんな事じゃないよ!女の子にとっては、とっても気になる大事な事だもん!」

 笑いながら呆れたように言う涼に、里緒は反論する。

「ごめん、ごめん、悪かった。だけどな、里緒。俺はグラマーが好きなんじゃなくてお前が好きなんだよ。

その顔も、声も、髪も、体も、性格も、お前だから好きなんだ。それをしっかり覚えておくように。分かったか?」

「りょ・・・涼兄・・・・」

 涼のあまりにも恥ずかしい、でもキッパリと言い切ったその台詞に、里緒は照れてしまう。

「で? 聞きたい事はそれだけか?」

「あ、ううん。あともう一つ」

「今度は何だ?」

「あ、あのね・・・えっと・・・その・・・初めて、し、した時の事なんだけど・・・。

涼兄はあの日、最初から・・・あの・・・しようと思ってたんでしょ?

なのに、見納めとか言って、何で直前に制服を着てくれなんて、言ったのかなぁって・・・」

 口にするのが恥ずかしくて、里緒はまたどもりながら聞いた。

「うーん・・・・。それに関しては・・・言ってもいいんだが、多分お前怒るぞ?」

「何で?」

「うーん・・・・。一言で言えば、男のロマンと言うか、何と言うか・・・・」

「・・・・何それ?」

 妙に歯切れの悪い涼の言葉に、里緒は首を傾げた。

「・・・・要するにだな。俺はお前と初めて愛し合う時は、絶対制服のままでって思ってたんだよ。

でも、高校生のお前に手を出す訳にはいかない以上、卒業を待つしか無かった。

俺はもう我慢の限界だったから卒業式の日を狙ってたし、

そうなると当然、制服姿でするのはその当日の夜という事になる。

卒業したお前に不審に思われる事無く制服を着て貰うには、絶好のタイミングだったんだよ。

それに、卒業すれば制服はもう着ないんだから、乱れて皺になっても

全然平気だろ? たとえ、どんな汚れ方をしてもね」

「・・・・・・・・・・・・・」

 告白のあまりの内容に、里緒は開いた口が塞がらない。この笑顔の下で、そんな事を考えていたなんて・・・。

「・・・・イメージが崩れたか? こんな男だとは思わなかった・・・?」

 その言葉に里緒はハッとした。涼の声色が少しだけ変わったから。

「涼兄・・・。もしかして無理してた? あたし、理想の人を押し付けてた・・・・?」

「そんな事はないよ・・・・」

 涼は優しく答えてくれたが、おそらく図星なのだろうと里緒は思った。

 彼の事を何でも知っているつもりで、実は何も分かっていなかったのかも知れないと。・・・でも・・・・。

「あのね、涼兄。涼兄は、あたしがあたしだから好きって言ってくれたでしょ?他の誰でもない、あたしだからって・・・。

あたしもそうだよ。涼兄が涼兄だから好きなの。他の人じゃ絶対ダメなの。涼兄の全てが好きなの。愛してるの。

・・・・それこそ、涼兄がたとえ悪魔だったとしても、その悪魔に愛されたいって思っちゃう程・・・・」

「里緒・・・・」

「あたしっ・・・・涼兄を想う気持ちは、絶対誰にも負けないっ。世界中の誰にも。絶対なんだから・・・・・っ!」

「里緒、お前・・・・」

 涼は驚いた。彼女が自分に対して、これ程激しい情熱を向けているとは知らずにいたから。

 自分ばかりが好きでいるような感覚に捕われていたのかも知れない。

 里緒はこんなにも自分に対して正面からぶつかってきてくれていたと言うのに。

「そうだな。俺もお前を想う気持ちは世界中の誰にも負けない。絶対に。・・・・今まで何を恐がっていたんだろうな」

「涼兄・・・・」

 唯一無二の人に想い想われるという事は、何と素晴らしく嬉しいものなのか。

 たとえ、この世の終わりが来ても、決して手離す事の出来ない存在。その人に巡り逢えた事の奇跡。

 ありとあらゆる全てのものに感謝したい位だった。

「だからね、涼兄は何か思った事があったら、隠さないであたしに言ってね?あたしは、それが嬉しいんだから。ね?」

 里緒の言葉に目の前がぼやけてきた涼は、それを見られぬように慌てて返事をした。

「じゃあ・・・取りあえず男のロマン第二弾をリクエストしようかな」

「・・・・第二弾?」

 気が付けば、いつの間にか車は人気の無い場所へと滑り込み停止していた。

 涼はすかさず里緒のシートを後ろへと倒し、彼女の上に覆い被さってゆく。

「り・・・・涼兄?・・・・あの・・・・」

 とまどう里緒の服のボタンを次々と外していき、滑らかな白い素肌を露わにさせながら涼は言った。

「第一弾は制服姿を堪能させて貰ったからね。次は・・・・裸エプロン」

「!!!」

 涼の言葉に里緒は真っ赤になって絶句した。

「・・・・嫌か?」

 自分の肌の上に次々と紅い跡を刻みながら尋ねてくる涼に、里緒はうっとりと体を預けながら答えた。

「ほ・・・他ならぬ涼兄の頼みだもん。あたしが断る訳ないでしょ?」

 そう言いながら涼の首筋に腕を絡めていくと、彼は嬉しそうに笑って里緒をぎゅっと抱きしめた。

 愛しているよ、と呟きながら。




END







「藤華楼」の結衣さまのところでフリー配 布されていた、
涼里緒ノベルです.

結衣さまのノベルはどれも甘くてラブラブなんですが,
私はこれが一番好きです♪
意外と芯が強い里緒,策士な涼兄,そして最強の母(笑).


結衣さま、ありがとうございました!



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