Girl be the witch


注意:この作品には里緒の本当の兄『涼』が出ているため
里緒の実兄を『涼』従兄を『亮』としております。
ややこしいですがお許し下さい。



「魔女になってお兄ちゃんの心を奪って見せるんだから〜!!」
小さな女の子が年上の男の子に一生懸命訴えている。
「あはは、里緒はちゃんとした魔女になれるのかな?」
男の子はニッコリ笑いながらも嬉しそうに女の子を見つめている。
「なるもん!絶対に『魔法学院』に入って立派な魔女になるもん」
「じゃあ、里緒が『魔法学院』に入学できたら僕は里緒の『彼氏(モノ)』になってあげるよ」
「え?」
「約束」
そっと結ばれた左手の小指と小指
その時ちょっとした魔法が二人に掛かったが二人は気付いていない…




「小早川〜!!」
甲高い声が教室中に響く。
「あんた、私の魔法道具勝手に触ったでしょ!!」
長く伸ばしているであろう赤茶色の髪を後ろで一つにまとめ、
黒いローブを羽織った女の子・鈴原里緒が教室の隅に一人の男の子を追い詰めている。
彼ら以外にも教室内にはクラスメートがいるが、誰一人として彼らの間に入ろうとはしなかった。
いや、入って行けなかったのだ。
里緒のあまりに剣幕に…
「どうしてくれるのよ!今日の第一級試験めちゃくちゃになったじゃないの!!」
「ほったらかしていたお前が悪いだろうが!俺は片付けてやろうと…」
「誰がほったらかしたのよ!あれは魔力を溜めていたのよ!!なのに、
あんたが勝手に持ち出すから魔力が安定しなくて危うく試験場を半壊にするところだったわよ!!」
涙がぐみながら叫ぶ里緒に教室内はシーンとなってしまった。
その沈黙を破ったのは里緒の親友・鈴木しおんだった。
「里緒、もしかして、魔法医学部の鈴原先生が作った魔方陣の上に魔法道具置いておいたの?」
しおんの問いに里緒は小さく頷いた。
「じゃあ、小早川君が知らないの無理無いよ」
「え?」
「だって、あの魔方陣、里緒と鈴原先生専用の魔力増幅サークルだよ。
それに、里緒。結界張るの忘れたでしょ?」
「あっ!」
もともと、魔力増幅の魔方陣は知られていない。
魔力増幅は簡単に言えば自然界の精霊たちの命を道具に吹き込む事である。
そもそも、道具に魔力を溜めるという発想をする人は少ない。
なぜなら、面倒くさい契約がいくつかあるからである。
だから、どちらかというとタリスマンを使って
一時的に自分の潜在能力を上げて魔力増幅をはかるのが一般的である。
道具に魔力増幅を行う者は必ず魔方陣の周りに結界を張って
他の人には見えないようにするのが普通である。
なぜなら、今回の里緒のように動かされる事によって魔力が暴走したり、
魔力を吸収しなくなってしまう場合かあるからである。
ちなみに、魔力増幅が完了すると魔法道具たちは自分の主の道具入れの中に自ら戻るのである。
「だから、今回は喧嘩両成敗。小早川君も悪いけど結界を張らなかった里緒も悪いという事」
うまく二人の仲裁をしたしおん。
「ごめん、小早川」
すんなりと謝る里緒に小早川と呼ばれた少年は笑みを浮かべる。


さて、説明が遅れたが、彼女達がいる学校はお気づきの通り普通の学校ではありません。
一応表向きは普通の中等部から大学院までの一貫教育のマンモス学院『並木学院』であるが
ある特殊の敷地内でごくごく限られた人数だけが『魔法学院』に入学しているのである。
表向きは『並木学院』の生徒であり、その実は現代社会で失われつつある
【魔法】について勉強をする『魔法学院』の生徒である。
鈴原里緒も魔法能力を認められ入学した『魔法学院』の一人である。
ちなみに『魔法学院』への入学は『並木学院』の理事長(彼も魔法使いらしい…真相は謎)が
許可した者しか入学できないのであった。
もっとも『魔法学院』を知っている人はあまりいないが…


「鈴原君はいるかい?」
教室の入り口からバリトンの声が教室に木霊する。
「あ、草薙先輩」
里緒は慌てて入り口へと移動する。
「明日、試験のやり直しをするそうだ。どうやら、だれかがあの試験場に魔法をかけて
公平な審査が出来なかったらしい。よって第一級試験を受けたものは再度試験を受けるようにと」
草薙と呼ばれた青年は、再試験の詳細を里緒に伝えると教室を後にした。
教室の中を振りかえった里緒は驚きのあまり思わず後退りする。
「な、みんなどうしたの?」
クラスメートの女の子達が両手を胸のまで拝むように組んで
「里緒!草薙先輩と親しいの?」
「忍先輩とどうやって知り合ったの!」
とか、先ほどの草薙忍の事についていろいろと聞いてきたのである。
「え?草薙先輩はお兄ちゃんが昔家庭教師をしていた相手だよ」
彼女達の質問を聞いているうちに落ち着きを取り戻した里緒は一呼吸置いてからそう答えた。
が、彼女達の反応は先ほどの話題から一変し
「あの涼先生が家庭教師!?」
「私も涼先生に個人授業を受けたいわ〜」
などなど今度は里緒の兄の話題へと移っていった。
かなり現金なものである。
「といっても半年だけだけどね。お兄ちゃんが特別講師としてこの学園に呼ばれるまでの間だったから」
「ふ〜ん、だから顔見知りなんだ」
「え?草薙先輩とはさっきの試験会場で初めて会ったんだよ」
里緒が答えるとこれまた教室内に悲鳴が上がる。
が、ちょうどその時授業開始のチャイムが鳴り授業がはじまったのであった。


〜数日後の放課後〜
「里緒、行こう!」
「え?どこへ?」
「どこって、今日は兄弟校の聖エミリオ学院との合同研究の日だよ」
「ああ、忘れてた」
「もう!そんなんで良く第一級試験にパスしたわね」
「あははは」
笑ってごまかす里緒は先日の再試験で見事、魔導士第一級昇給試験に合格したのであった。
ちなみに高校生である里緒が普通に昇給試験を受けていればまだ第三級あたりが妥当である。
それだけ里緒の魔法使い(魔術師)としての能力が高いという事である。
参考までに第一級合格者は試験受験者1000人に対して10人である。
「合同研究か…研究自体は楽しいから好きなんだけど…ねぇ」
しおんに同意を求めるように視線を上げる里緒。
「まあね、彼にだけはいつも飽きれてしまうわ…」
二人顔を見合わせてため息をつく。
「でも、今日で最後のはずだから頑張ろう!」
「そうね、上手くいけば今日中に研究結果が出るはずよね…上手くいけば…」
ため息をついてのっそりと立ち上がる里緒としおん。

〜聖エミリオ学院・高等部特殊学科〜
聖エミリオ学院の正門をくぐり特殊学科の教室の前まで来た里緒としおんは
大きく深呼吸をしながらドアに手を掛けようとしたその時
「やあ、小鹿ちゃんたち!」
やたら軽い口調で一人の少年が飛び出してきた。
里緒としおんは最初の頃は驚いて悲鳴を上げていたが最近ではなれたのか
眉間にしわを寄せるだけに留まっている。
「アラン、里緒ちゃんとしおんちゃんがあきれているよ」
アランと呼ばれた軽い口調の少年の後ろから天使の笑みを浮かべてもう一人の少年が姿を現した。
「しんちゃん、こんにちは!」
しんちゃんと呼ばれた少年に里緒は笑顔で挨拶をするとアランは
「はぁ〜なぜ、この僕には挨拶をしてくれないんだ?」
「その態度を改めればいつでも挨拶してあげる」
そっけなく答える里緒にアランは肩を竦めた。
「ねえ、しんちゃん」
「なあに?里緒ちゃん」
「今日って研究のまとめよね…」
「うん、そうだよ」
「なんで、研究レポートが一冊もないの?」
いつも共同研究の時に使っていたレポートが存在しない事を不思議に思った里緒が尋ねると
「もう、提出したよ」
「え?」
「まとめといっても感想を書くだけだからね…僕が書いて提出しちゃった。まずかったかな?」
「え、本当!?うわぁ〜、しんちゃんありがとう!!」
嬉しさのあまりか、しんちゃんに抱き付く里緒。
「どうやってまとめようか迷っていたんだ!ありがとう、しんちゃん」
少年から離れて笑顔でお礼を言う里緒にしんちゃんは顔を赤くしながらも嬉しそうに微笑んだ。
「じゃ、今日はもうこれで解散していいんだよね」
「いいと思うけど…どうして?」
「ひ・み・つ。しおん。わたし先に帰るね♪」
嬉しそうに笑顔を振り撒く里緒にしおんは理由を知っているのか小さなため息をつく。
「ねえ、今日、嘉納先生いる?」
一人残されたしおんがため息混じりに聞くと
「いると思うけど…どうして?」
「ううん。なんでもない」
小さく首を横に振って「じゃあ、私も帰るね」と言い残して帰路についたのであった。

一方里緒は『医務室』と書かれたドア前で身だしなみを整えると軽くノックをしてドアを開く。
「失礼します」
声を小さくして入室すると部屋の主は一瞬驚いた顔をしたが笑顔で里緒を迎えた。
「えへへ、研究授業が終わったから来ちゃった」
他に誰もいないことを確かめた里緒は小さく舌を出して笑う。
「他校生徒は無暗に入ってきちゃダメだよ」
くすくす笑いながら返事をする部屋の主に里緒は頬を膨らませて
「だって、今日で最後だもん!それに、亮兄あまりウチに遊びに来ないじゃない!!
だから、私から遊びに来たんだよ」
「そうだっけ?」
「そうだよ!!年に1・2回くらいしか会っていない気がするのは気のせい?」
軽く首を傾げながら尋ねる里緒に『亮兄』と呼ばれた青年は困ったような笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ」
すぐに元に戻った表情に疑問を持ちながらも里緒は最近あった事を身振り手振りで話した。
「あ、そうそう、里緒」
「なあに?」
「魔導士第一級昇給試験合格おめでとう」
「あ、ありがとう!でもなんで亮兄がしっているの?」
「涼が自分の事のように喜んでいたからな」
「お兄ちゃんが?」
驚いている里緒に亮は笑みを浮かべて
「そう言えば約束していたよね。一級に合格したらなんでも言う事を聞くって」
「あ、覚えていてくれたの?」
「里緒との約束は一度も忘れた事は無いけど?」
クスクスと笑う亮に里緒は顔を真っ赤にさせる。
「じゃあ、あの約束も覚えているの?」
「もちろん」
「里緒が『魔法学院』に入学できたら里緒の彼氏(モノ)になるって約束だろ?覚えているよ」
ニコニコ顔の亮に里緒はますます顔を赤くさせる。
「俺がずっと願っていた事だからね」
「え?」
「里緒、好きだよ」
真面目な顔で告白された里緒は驚きのあまり声が出なかった。
「俺はあの約束をした時に里緒に魔法を掛けられたんだ」
「え?」
「里緒はあの時に俺の心を虜にする魔法を掛けていたんだよ」
ニッコリ微笑む亮に里緒は首を傾げる。
「女の子は生まれた時から魔法を使うというけど本当だね」
「私が魔法を?」
「ああ。俺の心はずっと里緒に囚われっぱなしなんだ」
そっと里緒の腕を取り自分のほうに引き寄せて自分の胸に抱きしめる亮。
最初パニックを起こした里緒だが亮の心臓の音を聞いているうちに落ち着きを取り戻して
「私も亮兄のこと好きだよ。ずっと私の片思いだと思ってた」
「なんで?」
「お兄ちゃんに『亮なら彼女いるぞ』って言われてたから」
「ん〜、確かに『好きな子はいる』とは答えたが彼女がいるとは答えた覚えはないんだけどな〜」
クスクスと笑っている亮は優しく里緒の髪を撫でる。
「まあ、涼にしてみれば最愛の妹を取られるのだから当然といえば当然だな」
亮の胸に抱きしめられた状態で話を聞いている里緒。
その時部屋のドアがいきなり開き
「亮!!里緒が来ているだろ!?」
怖い顔で里緒の兄・涼が部屋の中に入ってくる。
そして、抱き合っている二人を見てしばし言葉を失っている。
「涼?」
「お兄ちゃん?」
二人が声をかけると我に帰った涼が二人を引き離し
「亮!お前、里緒には手を出さないって誓ったじゃないか!!」
怒鳴る涼に、亮は平然とした顔で
「里緒が『魔法学院』に入学した時から俺は里緒の彼氏だよ。それに、涼、約束したよな。
里緒が魔導士試験一級に合格したら俺が里緒を貰うって」
「!!」
「!?」
亮の言葉に顔を青くする涼と赤くする里緒。
「と、父さん達がどういうか…」
そう、里緒の父親は一人娘の里緒をそれはもう、『超』がつくほど可愛がっているのである。
里緒に男の影が見える度にあらぬ妄想をして娘のそばから男の影を追っ払っていたのである。
ただし、何処にでも例外はあるらしい・・・というか眼中になかったらしい従兄の亮は無視されていたのであった。
「あ、それなら母さんと叔母さんで上手く説得してくれたよ。母さん達は昔から俺の気持ち知っていたからね」
ニッコリ微笑む亮の背中に涼は黒い翼と尻尾を見た。
「というわけで、里緒」
「はい?」
「幸せにするよ」
「え?」
「里緒が高校を卒業したら結婚しような」
「ええええええええええ?」
突然のプロポーズに里緒はうろたえる。
当たり前である。つい先ほど思いを告げたばかりなのだから…
「俺を好きだといったのは嘘?」
「ううん、亮兄のことは大好きだよ。でも、いきなり結婚って言われても実感しないよ」
「里緒の言う通りだ!!まずは清い交際からはじめろ!」
「嫌だね」
涼の言葉に即答する亮。
「俺はずっと我慢してきたんだ。本当は今すぐ里緒を俺のものにしたいくらいなのに、
今更涼の言う『清い交際』からはじめるつもりはないね」
ちなみに涼の言う『清い交際』とは交換日記である…今時古いよ、涼兄ちゃん…
「里緒!お前、亮と結婚する意志はあるのか?」
なんだか、話が飛躍している事に里緒本人はたじろいでいる。
が、ずっと大好きだった亮からのプロポーズ。
先程はいきなりの事で驚いただけで嫌ではない。
「うん、亮兄のお嫁さんになりたい」
ポツリと呟かれた言葉に涼は真っ白になり、亮は嬉しさのあまり里緒を再び抱きしめる。
「絶対に幸せにするからな!」
「うん、私も亮兄を幸せにしてあげる!!」
里緒のかわいらしい返事に亮は理性を押さえる事が出来ず(?)里緒の唇を奪う。
驚いた里緒だが、優しい亮のキスに次第に翻弄されて行く。
まるっきり涼を無視しての行動に数時間後、涼が怒り狂ったのは言うまでもないだろう…





紫藤晄さま のサイトでフリー配布されていた涼里緒ノベルです♪
Siesta世界で魔法学園!!なんて素敵なんでしょうっ!!!
読んだ瞬間、涼兄(従兄の方)の
「俺はどの世界であっても、お前と出会い、守る役目を与えられているんだって・・・」
という台詞が浮かんできました(笑)。

晄さまによると シリーズ化するかも知れないとのこと、
続きが楽しみです♪

晄さま、ありがとうございました♪




戻 る
トップに戻る